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放置車両の所有者が不明でも撤去するために行う対処方法を解説

放置車両の所有者が不明でも撤去する方法

私有地に置き去りにされた車の持ち主が分からない。車検証も見えず、連絡先も分からない。この状態がいちばん厄介なのは、困っている側が、自分の判断では動かせないという点にあります。勝手に動かせば、こちらが責任を問われる側に回ります。

ただし打つ手が無いわけではありません。運輸支局への登録事項等証明書の請求、住民票をたどる調査、弁護士会照会。さらに、相手が見つからないままでも裁判を進められる公示送達という制度もあります。この記事では、その順番と、途中で行き止まりになったときの分かれ道を整理します。

所有者不明の放置車両について

放置車両とは、土地の所有者の意思とは関係なく、無断で長期間とめられたままになっている自動車のことです。ナンバープレートが外されていたり、車検が切れていたり、室内にゴミが溜まっていたりと、すでに使われていないことが外から分かる状態のものも多くあります。

所有者不明の放置車両が厄介なのは、次の3つが同時に起きるからです。

  • 相手がいない
    持ち主が分からないので、どけてくださいと言う相手がいません。
  • 自分では動かせない
    自分の土地なのに、自分の判断で動かすと違法になります。
  • 警察が取り締まってくれない
    私有地の駐車違反は道路交通法の取り締まりの対象外です。
所有者不明の車を片づけるまでの全体像

大きく3つの段階に分かれます。この記事は、この順番に沿って説明します。

  • ① 記録と届け出
    車両の状態を記録し、警告書を貼り、警察に届け出ます。
  • ② 所有者の調査
    運輸支局や軽自動車検査協会で証明書を取り、住所が古ければ住民票をたどります。
  • ③ 法的手続き
    それでも見つからなければ、公示送達を使って訴訟を起こし、判決をもらって強制執行します。

勝手に撤去すると違法になる(自力救済の禁止)

自分の土地に置かれた他人の車であっても、土地の所有者が勝手に動かしたり処分したりすることはできません。裁判所の手続きを経ずに自分の力で権利を実現することを「自力救済」といい、日本ではこれが原則として認められていません。

注意したいのは、「自力救済を禁止する」という条文が民法にあるわけではなく、判例によって確立された考え方だという点です。基礎になっているのは、最高裁判所 第三小法廷 昭和40年12月7日の判決(民集19巻9号2101頁)です。この判決は、法律の定める手続きによっていては権利を守れなくなるような緊急やむを得ない事情がある場合に限り、必要な限度で例外的に許されるという考え方を示しました。例外はきわめて狭く、車がそこにあり続けるというだけでは通常これに当たりません。

この判決は放置車両そのものについて判断したものではなく、自力救済は原則として許されないという一般論を示した判例として引かれています。

実際に勝手に動かした場合、問われる可能性があるのは次のような責任です。

  • 器物損壊罪(刑法261条/3年以下の拘禁刑または30万円以下の罰金もしくは科料)
    他人の物を壊したり使えなくしたりした場合です。レッカー移動中の破損や部品の取り外しも含まれ得ます。
  • 窃盗罪(刑法235条/10年以下の拘禁刑または50万円以下の罰金)
    他人の車を自分の支配下に移した場合です。「捨てられた車だと思った」という言い分が通るとは限りません。
  • 不法行為による損害賠償(民法709条)
    車の価値が下がった分や、代わりの移動手段にかかった費用などを請求される可能性があります。

出典:e-Gov法令検索「刑法」。刑法の刑罰は2025年6月1日施行の改正で懲役と禁錮が「拘禁刑」に一本化されています。「3年以下の懲役」と書かれた解説は、この改正前の記述です。

つまり先に手を出した側が不利になる構造になっています。遠回りに見えても、手続きを踏むほうが結果的に早く、安全に終わります。

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放置車両の所有者を確認する方法

所有者不明といっても、まったく手がかりが無いわけではありません。ナンバープレートか車台番号のどちらかが読めれば、登録情報から所有者にたどり着ける可能性があります。ただしその前に、よくある思い違いを知っておく必要があります。

警察は所有者を教えてくれない

「警察に頼めばナンバーから持ち主を調べてもらえる」と思われがちですが、警察が所有者の氏名や住所を土地の所有者に教えてくれることは、原則としてありません。照会の結果である氏名や住所は個人情報であり、第三者に伝えられる情報ではないからです。

あわせて、個人どうしの争いに警察は立ち入らない(民事不介入)という原則があります。そもそも私有地は道路交通法の駐車違反の取り締まりの対象外で、「レッカーで持っていってほしい」という要望に警察が応じることもありません。ここを期待して待っていると、時間だけが過ぎます。

それでも警察に届け出る理由

教えてもらえないなら意味がないかというと、そうではありません。警察に届け出る目的は、所有者を教えてもらうことではなく次の3つです。

  • 盗難車・事件性の有無を確認してもらう
    盗難車や事件に使われた車であれば、警察の側で動きます。この確認をしないまま撤去を進めると、証拠を動かしてしまうおそれがあります。
  • 相談した事実を記録に残す
    いつから、どういう状態で置かれていたのかを第三者の記録として残せます。後の手続きで効いてきます。
  • 公道か私有地かの切り分けをしてもらう
    公道にはみ出している、危険物が積まれているなど、状況によっては警察や道路管理者が動ける場合があります。

相談したときは、受理番号や、担当した警察署・担当者の名前を控えておいてください。あとで証明書を請求するときや、業者に依頼するときに求められることがあります。

先に車両の状態を記録しておく

調査と並行して、動かす前の状態を写真と日付で残しておきます。所有者と争いになったとき、いつから置かれていたのかを示せるのは記録だけです。

  • ナンバープレートの全文字(地域名・分類番号・ひらがな・一連指定番号)
  • 車体の四方向と、フロントガラスから見える車検ステッカーの有無
  • タイヤの状態、ほこりの積もり具合、周囲の雑草など放置期間が推測できるもの
  • 同じ位置から日を空けて複数回撮影した写真。動いていないことの証明になります。

運輸支局・軽自動車検査協会に照会する

普通自動車の登録情報は国土交通省の運輸支局が管理しています。ここで「登録事項等証明書」を請求すると、車検証に記載されているのと同じ所有者・使用者の氏名と住所が確認できます。軽自動車は運輸支局ではなく軽自動車検査協会の管轄で、請求する書類の名前も違います。

かつて使われていた「陸運局」「陸運支局」は現在の正式な機関名ではありません。窓口を探すときは「運輸支局」(軽自動車は「軽自動車検査協会」)で調べてください。

弁護士会照会という方法

自分で請求しても行き止まりになった場合、弁護士に依頼する道があります。弁護士法23条の2が定めているのが、弁護士会照会という仕組みです。弁護士が受任している事件について所属弁護士会に申し出ると、弁護士会が公務所や公私の団体に必要な事項の報告を求めるという流れになります。照会するのは弁護士本人ではなく弁護士会である、というのがこの制度の形です。

出典:e-Gov法令検索「弁護士法」23条の2。弁護士に事件を依頼していることが前提で、個人が直接申し込める窓口ではありません。また弁護士会は申出が適当でないと認めれば拒絶できると条文に定められています。申し出れば照会してもらえるとは限りません。

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放置車両の所有者特定方法

ここからは実際の請求手続きです。普通自動車か軽自動車か、そしてナンバープレートと車台番号が読めるかどうかで、やることが変わります。

普通自動車:登録事項等証明書を請求する

ナンバープレートが付いている普通自動車なら、運輸支局の窓口で登録事項等証明書を請求します。証明書は2種類あります。

  • 現在登録証明書(400円)
    今その車が誰の名義になっているかが分かります。所有者に連絡を取るのが目的なら、通常はこちらです。
  • 詳細登録証明書(1,200円)
    新規登録からの履歴まで分かります。名義が何度も移っている車の来歴を追うときに使います。

請求に必要な情報 ── ナンバーだけでは足りない

ここが最初の関門です。請求にはナンバープレートに表記されている文字・数字のすべてと、車台番号の下7桁が必要とされており、一部分でも不明な箇所があると照会できないとされています。

車台番号は、車種によってフロントガラスの内側やエンジンルームなどから外側でも読み取れることがあります。また、請求書には何のために必要なのかという具体的な理由も記入します。証明書が不当な目的に使われるおそれがあると判断されれば、交付は断られます。窓口では運転免許証などによる本人確認もあります。

出典:国土交通省「登録事項等証明書の交付請求について」。手数料は2026年4月1日(令和8年4月1日)に改定されました(現在証明 300円→400円、詳細証明 1件あたり 1,000円→1,200円)。「300円」「1,000円」と書かれた解説は改定前の金額です。改定の内容は国土交通省「自動車の登録・検査の法定手数料変更について(令和8年4月1日)」に一覧があります。

車台番号が確認できないときの例外

ボンネットが開かない、汚れや積雪で読めない、そもそも車台番号の打刻位置に近づけない──実際にはよくあることです。この場合でも、私有地に放置されている車については、自動車登録番号だけで照会できる取扱いが用意されています。

ただし無条件ではありません。放置されている状況を示す書類を別途添えることが求められます。求められる書類の内容と様式は、運輸支局によって案内が異なるため、ここでは具体的な書類名を挙げません。出向く前に、請求先の運輸支局に状況を伝えて確認してください。

参考:関東運輸局「登録事項等証明書」国土交通省ポータル。国土交通省のポータルにも「自動車登録番号と車台番号(下7桁)を記載できない場合は別途書類が必要になるため運輸支局等に問い合わせるように」という案内があります。

ナンバープレートがない場合

ナンバープレートが外されている車は、車台番号を手がかりにした調査を進めることになります。車台番号が読めれば、そこから登録情報にたどれる可能性が残ります。車台番号も判読できない場合、個人で所有者にたどり着くのは困難です。警察への届け出と並行して、後述する法的手続きを検討することになります。

軽自動車の場合 ── 請求の条件がゆるい

軽自動車は道路運送車両法上の「登録」ではなく「検査」の対象で、情報を持っているのは運輸支局ではなく軽自動車検査協会です。請求する書類も、登録事項等証明書ではなく検査記録事項等証明書という別のものになります。

実務上おさえておきたいのは、請求の条件が普通自動車より緩いという点です。軽自動車の請求書に記入するのはナンバープレートのすべての番号(ひらがな等を含む)「又は」車台番号とされています。普通自動車のように両方そろわないと照会できない、ということはありません。

出典:軽自動車検査協会「検査記録事項等証明書」。手数料は現在の記録のみで1件400円、過去の履歴を含む場合は1,200円(履歴が2枚目以降になると1枚につき400円追加)です。請求書は軽第3号様式で、最寄りの事務所・支所・分室の窓口に提出します。

証明書の住所に送っても、届かなかったとき

ここが、手続きの説明が止まりがちなところです。証明書を取って所有者の住所が分かり、内容証明郵便を送った。ところが「あて所に尋ねあたりません」という付箋がついて返ってきた──。所有者不明の放置車両では、これがむしろ普通に起こります。

登録上の住所は、現住所とは限らない

引っ越しをしても自動車の登録上の住所変更をしない人は珍しくありません。登録の住所は住民票と自動的に連動するものではありません。長く放置されている車ほど、登録された住所と実際の居所がずれている可能性は高くなります。証明書に書かれているのは、あくまで最後に手続きがされた時点の住所です。

住民票をたどる(第三者請求)

登録上の住所が分かっているなら、そこを起点に住民票をたどれる場合があります。根拠になるのは住民基本台帳法12条の3です。この条文は、本人や同一世帯の人以外にも交付できる場合を定めています。対象になるのは自己の権利を行使し、または自己の義務を履行するために住民票の記載事項を確認する必要がある者です。市町村長がその申出を相当と認めるときに、住民票の写しが交付されます。自分の土地に置かれた車の持ち主に撤去を求めるというのは、この「自己の権利を行使するため」に当たり得ます。

住民票には転出先が記載されるため、前の住所 → 転出先 → さらに次の転出先をつないでいけば、現在の居所に近づけることがあります。転出入を繰り返している場合は、この作業を何度も重ねることになります。

出典:e-Gov法令検索「住民基本台帳法」12条の3。注意点が3つあります。第三者請求で交付されるのは基礎証明事項のみが表示された住民票の写しで、続柄や本籍は表示されません。交付するかどうかは「相当と認めるとき」という市町村長の判断であり、請求が通らないこともあります。またDV等の支援措置が講じられている場合は交付が制限されます。請求理由を疎明する書類の要否は市区町村ごとに運用が異なるため、窓口に事前確認してください。

それでも追えなくなる典型的なパターン

  • 住民票の住所に実際には住んでいない
    住民登録を残したまま所在が分からなくなっているため、書類上の住所に送っても届きません。
  • 所有者がすでに亡くなっている
    相手は相続人に変わります。後述します。
  • 所有者がローン会社やディーラーになっている
    車検証の所有者欄が個人ではなく会社になっている場合です。これも後述します。
  • 所有者の法人がすでに解散・消滅している
    本店所在地に実体がなく、代表者にも連絡がつかないことがあります。

ここまで尽くしても連絡がつかない場合に使うのが、相手の所在が分からないままでも裁判を進められる「公示送達」です。

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所有者が判明しない放置車両への対処方法

所有者にたどり着けないまま撤去へ進むには、「持ち主を探す努力を尽くした」という事実を積み上げていく必要があります。いきなり裁判にはなりません。

警告書を貼って待つ

最初の一手は、車両に警告書を貼り付けることです。その車が無断で置かれていること、期限までに移動しなければ法的手続きに進むこと、土地の管理者の連絡先、そして掲示した日付を書きます。

貼るときのポイントは3つあります。

  • 防水する
    透明な袋に入れるかラミネートします。雨で文字が消えると、掲示した証拠として使えません。
  • 複数の面に貼る
    一部の面だけだと「見えなかった」と言われる余地が残ります。
  • 貼った直後に、日付が分かる形で写真を撮る
    いつから掲示していたかが、あとで効いてきます。

どれくらい待てばいいのか

「何日待てば撤去してよい」という法律上の決まりはありません。実務では2週間から3か月程度を置くことが多いようですが、これは慣行であって基準ではありません。

大事なのは待った長さそのものではなく、その間に何をしたかを説明できることです。警告書を貼った日、内容証明を出した日と返送された日、運輸支局や市区町村に出向いた日を、記録として残しておいてください。公示送達を申し立てる段階で、この記録が「調べ尽くした」ことの説明になります。

公示送達を使って訴訟を進める

訴訟は、訴状が相手に届いて初めて始まります。相手の住所が分からなければ届けようがなく、このままでは相手が行方不明であるほど、こちらが何もできなくなることになってしまいます。これを解決するのが公示送達です。

公示送達とは

公示送達は、相手の住所や居所が分からない場合に、裁判所が定められた方法で公示することで書類が相手に届いたものとして扱うという制度です。要件は民事訴訟法110条に、方法は111条に定められています。

申立てには相手の所在を調査しても判明しなかったことを示す必要があります。ここで効いてくるのが、これまでの積み重ねです。登録事項等証明書、返送された内容証明の封筒、たどった住民票、警告書を貼った日付入りの写真──これらが「調べたが分からなかった」ことの説明になります。

出典:裁判所 公示送達・公告

公示されるのは「書類を預かっている」という事実まで

ここは誤解されやすいので、はっきり書きます。公示送達で示されるのは、裁判所書記官が名宛人あての書類を保管しており、いつでも交付するという趣旨の事項であって、訴状の中身が公開されるわけではありません。

「訴えた内容が世間に晒される」と心配する必要はありませんし、逆に「公示すれば相手が気づいてくれる」と期待できるものでもありません。相手が知らないまま手続きが進むことを前提にした制度です。

公示送達の方法は2026年5月21日に全面施行された民事訴訟法等の改正によって変わりました。現在は、最高裁判所規則で定める方法により不特定多数の者が閲覧できる状態に置く措置をとることが軸になっています。そのうえで、裁判所の掲示場への掲示か、裁判所に設置した端末での閲覧措置をあわせてとる形です。「掲示場に掲示するだけ」という説明も、「掲示がインターネットに置き換わった」という説明も、どちらも現行法とは食い違います。出典:法務省「民事訴訟法等の一部を改正する法律」裁判所「公示送達・公告」

少額訴訟では撤去できない

費用を抑えたいという理由で少額訴訟を勧める情報を見かけますが、少額訴訟で車をどけさせることはできません

少額訴訟は、裁判所の説明によると「60万円以下の金銭の支払を求める訴え」について原則1回の審理で判決を出す手続きです。対象は金銭の支払いに限られており、物の引渡しや撤去を求める訴えは含まれません。駐車料金相当額を請求するには使えても、車を動かさせるためには使えないということです。ここを取り違えると、手続きをやり直すことになります。

出典:裁判所 少額訴訟

撤去を求めるなら「妨害排除請求」

自分の土地に他人の車が置かれている状態は、土地の所有権が妨げられている状態です。これを取り除くよう求めるのが妨害排除請求で、通常の民事訴訟として起こします。訴える裁判所は請求額(訴額)で決まり、140万円以下なら簡易裁判所、それを超えれば地方裁判所です。車の撤去とあわせて、土地を使われた分の損害金を請求することもできます。

訴えを起こす際の手数料は訴額に応じて決まります。裁判所「手数料」 に早見表があります。

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判決が出た後:強制執行

判決が確定しても、所有者が自分で車をどけるとは限りません。そもそも所在が分からないのですから、動く相手がいないのが普通です。その場合は強制執行を申し立てます。車の撤去は本人でなくてもできる行為なので代替執行という形をとり、執行官の監督のもとで業者が車を運び出します。

費用は相手方に請求できる建前ですが、所在の分からない相手から実際に回収できるとは限らず、いったんは申し立てた側の負担になるのが実情です。それでも、手続きを踏んだうえでの撤去であれば、あとから所有者が現れてもあとから所有者が現れたときに、その撤去が裁判所の判断と執行の記録に基づくものであることを示せます。時間と費用をかけてでも、後々の争いを断ち切れることが、この道を通る意味です。

所有者が死亡している場合

調査の結果、登録上の所有者がすでに亡くなっていることが分かる場合があります。長期間動かされていない車では珍しいケースではありません。相手がいないという意味では所有者不明と同じですが、進め方は変わります。

相手は故人ではなく相続人になる

亡くなった人の車は相続財産の一部です。所有権は相続人に移っているため、撤去を求める相手は故人ではなく相続人になります。戸籍をたどって相続人を確定させる作業が必要で、相続人が複数いれば全員が交渉相手です。

全員が相続放棄していた場合

価値の無い車と借金しか残っていない場合、相続人が全員相続放棄していることがあります。相続放棄は、自己のために相続の開始があったことを知ったときから3か月以内に家庭裁判所へ申述して行うもので、放棄した人ははじめから相続人でなかったことになります。つまり、放棄した人に撤去を求めることは原則としてできません。

ただし、まったく手がかりが消えるわけではありません。民法940条は、相続放棄をした人であってもその放棄の時に相続財産に属する財産を現に占有しているときの義務を定めています。相続人または相続財産の清算人に引き渡すまでの間は、自己の財産におけるのと同一の注意をもって保存しなければならないという内容です。車を現に管理していた人がいるなら、その人が当面の窓口になり得ます。

出典:e-Gov法令検索「民法」940条裁判所「相続の放棄の申述」。2つ注意点があります。この義務を負うのは放棄した人全員ではなく放棄の時に現にその財産を占有していた人だけです。そして義務の内容は「保存」であって、撤去して処分する義務ではありません。条文の見出しが「管理」のままなので取り違えられがちな箇所です。

引き受ける人が誰もいないとき

相続人がいるかどうか明らかでないときは、家庭裁判所に相続財産清算人の選任を申し立てる方法があります。相続人全員が相続放棄して相続する人がいなくなった場合も、これに含まれます。選任されれば、その清算人が相続財産を管理・清算する立場になり、交渉や訴訟の相手方になります。

出典:裁判所「相続財産清算人の選任」。かつて「相続財産管理人」と呼ばれていた手続きで、民法の改正(2023年4月1日施行)により条文上も「清算人」に改められています。なお申立てには予納金の負担が生じるのが通常ですが、金額は事案や家庭裁判所によって異なり、一律に示せるものではありません。車1台の撤去のために見合うかどうかは、弁護士に相談したうえで判断してください。

車検証の所有者がローン会社・ディーラーだった場合

証明書を取ってみたら、所有者の欄が個人ではなく、信販会社やディーラーの名前になっていた。これもよくあるパターンです。

所有権留保という仕組み

ローンで車を買った場合、代金を払い終えるまで所有権を信販会社やディーラーに残したままにしておくことがあります。これを所有権留保といい、車検証では所有者=信販会社・ディーラー/使用者=実際に乗っている人という形で記載されます。実際に乗っていたのは使用者であって、所有者欄の会社ではありません。

連絡すべき相手はどちらか

撤去を求める相手としては、所有者である会社と、使用者である個人の両方が考えられます。実際に車を置いた張本人は使用者ですが、使用者と連絡がつかない場合、所有者である会社に連絡すると引き取りに応じてもらえることがあります。会社であれば登記から所在地や代表者をたどれるため、個人が行方不明のケースより、むしろ解決しやすいことがあります。

ただし会社側に引き取る義務が当然にあるわけではなく、「使用者に請求してほしい」と言われることもあります。応じてもらえるかどうかは会社の判断です。また、ローンが完済されていれば所有権はすでに使用者に移っており、名義変更がされていないだけ、という場合もあります。

何年放置されていれば処分できるのか

よく聞かれる質問ですが、答えははっきりしています。「何年たてば、置かれた車を土地の所有者が処分してよい」という制度はありません

時効や「捨てられた物」をあてにしない

民法には、関係しそうに見える規定が3つあります。長期間占有を続ければ所有権を取得できるという取得時効(162条)。取引によって動産の占有を始めた人を保護する即時取得(192条)。そして、持ち主のいない動産は所有の意思をもって占有すれば自分のものになるという無主物先占(239条)です。これらを根拠に「放置車両はもらってよい」と説明されることがありますが、放置車両にそのまま当てはめるのは危険です

  • 年数が過ぎれば自動的に自分のものになる、という制度ではない
    取得時効は20年、善意無過失なら10年ですが、いずれも「所有の意思をもって」占有していたことが要件です。土地に置かれたままにしていただけでは、これを満たすとは限りません。
  • 即時取得は、拾った場合には使えない
    即時取得は「取引行為によって」占有を始めた場合の規定です。放置されていた車を運び出しただけでは取引行為がありません。そもそも登録された自動車は即時取得の対象にならないと解されています。
  • 登録されている車は「持ち主のいない物」とは言いにくい
    登録が残っている車には、書類の上で持ち主がいます。所有権を放棄したと言えるかどうかは、本人に確認しない限り判断できません。

出典:e-Gov法令検索「民法」(162条・192条・239条)。判断を誤ったときに器物損壊罪や窃盗罪を問われるのは土地の所有者の側です。年数を根拠に自分の判断で処分するのではなく、手続きを踏んで撤去する権利をはっきりさせてから動くのが安全な考え方です。

では実際にはどれくらいかかるのか

所有者が判明して話がついた場合は、数週間で終わることもあります。一方、公示送達を使って訴訟から強制執行まで進む場合は、調査の期間も含めて半年から1年以上というのが一つの目安です。ただし相続人の調査が必要になるかどうかなど事案によって大きく変わるため、確実な見通しをここで示すことはできません。

公道・道路上に放置されている場合の窓口

ここまでは私有地に置かれた車を前提にしてきました。放置されている場所が公道や公共の場所であれば、対応するのは土地の所有者ではありません

どこが窓口になるのか

  • 警察
    交通の妨げになっている場合、放置駐車違反にあたる場合の窓口です。
  • 市区町村(道路管理者)
    多くの自治体が放置自動車の処理に関する条例を設けており、調査・警告・撤去命令を経て、所有者が分からないまま一定の要件を満たした場合に市が引取業者へ引き渡す、といった手順が定められています。
  • 国・高速道路会社
    国道や高速道路は、それぞれの道路管理者が対応します。

まず公道か私有地かを切り分ける

窓口を探す前に、その場所が公道なのか私有地なのかをはっきりさせてください。私道や、通り抜けできる私有地は判断が難しいことがあります。警察や市区町村に問い合わせれば、どちらの扱いになるかを確認できます。

注意してください。自治体の放置自動車の条例が対象にしているのは、道路・公園・広場など公共の用に供されている土地です。私有地に放置された車を自治体が撤去してくれるわけではありません。私有地の場合は、この記事で説明してきた民事の手続きで進めることになります。

撤去にかかる費用と、誰が負担するのか

所有者不明の放置車両を片づけるまでには、次のような費用がかかります。

  • 調査にかかる費用
    登録事項等証明書や住民票の交付手数料、内容証明郵便の郵送料など。1件あたりは小さい金額です。
  • 法的手続きの費用
    訴訟の手数料は訴額に応じて決まります。弁護士に依頼すればその費用が別途かかります。
  • 撤去・保管の費用
    レッカー移動と、引き取りまでの保管にかかる費用です。
  • 処分(廃車)の費用
    解体費用のほか、リサイクル料金が預託されていない車ではその負担が生じることがあります。

費用は本来、車を放置した所有者が負担すべきものです。しかし所有者不明の車では、そもそも請求する相手がいないか、いても支払能力が無いことが多くあります。いったんは土地の所有者側が立て替えることを前提に考えておいたほうが現実的です。

専門業者に相談するという選択肢

ここまでの手続きを、すべて土地の所有者が自分でやらなければならないわけではありません。所有者の調査、警告書の作成、運輸支局での請求、弁護士や裁判所とのやり取り、そして実際の運び出しまで。放置車両の撤去を扱っている業者に、窓口をまとめて任せることができます。

業者を選ぶときは、放置車両の撤去実績があるか、どこまでを引き受けてくれるのか、費用の内訳が示されるかを確認してください。安さだけで選ぶと、手続きを飛ばして運び出そうとする業者に当たることがあります。その場合、依頼した側も責任を問われかねません。

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よくある質問

放置車両の所有者確認はどうすればいいですか?

ナンバープレートが付いている普通自動車であれば、運輸支局で登録事項等証明書を請求すると所有者と使用者が分かります。軽自動車は軽自動車検査協会で検査記録事項等証明書を請求します。普通自動車の請求にはナンバーの全文字と車台番号の下7桁の両方が必要ですが、軽自動車はどちらか一方で足ります。警察に照会を頼んでも、所有者の氏名や住所を教えてもらうことはできませんので、そこは期待しないでください。

車検証に所有者が載っていない場合はどうすればいいですか?

車内の車検証が見えない、または車検証自体が無い場合でも、ナンバープレートか車台番号が読めれば登録情報から所有者をたどれます。なお車検証の所有者欄が信販会社やディーラーになっていることもあり、その場合は実際に乗っていた使用者と、名義上の所有者の両方が相手になり得ます。どちらも確認できない場合は個人での特定は難しく、警察への届け出と並行して、公示送達を使った法的手続きを検討することになります。

無断駐車している車の所有者を調べる方法はありますか?

手順は放置車両と同じで、運輸支局または軽自動車検査協会への証明書の請求が基本です。それでも住所が古くて連絡がつかない場合は、住民票の第三者請求で転出先をたどるか、弁護士に依頼して弁護士会照会を使う方法があります。ただし住民票の第三者請求は、市町村長が相当と認めたときに交付されるものです。請求が通らないこともあります。

所有者不明の放置車両を、もらうことはできますか?

置かれているというだけの理由で、その車をもらうことはできません。登録が残っている以上、書類の上では持ち主がいます。勝手に自分のものにすれば器物損壊罪や窃盗罪に問われる可能性があります。自分の名義にするには、所有者を特定して譲り受けるか、訴訟を経て権利関係をはっきりさせる必要があります。

撤去までにどれくらいの期間がかかりますか?

所有者が判明して話し合いで解決すれば数週間で終わることもあります。所有者不明のまま公示送達を使い、訴訟から強制執行まで進む場合は、調査期間を含めて半年から1年以上かかることがあります。相続人の調査が必要かどうかなど、事案によって大きく変わるため、確実な見通しを示すことはできません。

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まとめ

所有者が分からない放置車両で最初に押さえておきたいのは、困っている側が勝手に動かせないという点です。自力救済は原則として認められておらず、土地の所有者が自分の判断で車を移動させたり処分したりすれば、器物損壊罪や窃盗罪、損害賠償の責任を問われる側に回ります。遠回りに見えても、手続きを踏むことが結局は近道になります。

進め方は段階に分かれています。まず車両の状態を写真で記録し、警告書を貼り、警察に届け出て盗難車でないことを確認します。次はナンバープレートか車台番号を手がかりにした所有者の調査です。普通自動車なら運輸支局で登録事項等証明書を、軽自動車なら軽自動車検査協会で検査記録事項等証明書を請求します。普通自動車はナンバーの全文字と車台番号の下7桁の両方が要るのに対し、軽自動車はどちらか一方で足りるという違いがあります。車台番号が読めない放置車両については、登録番号だけで請求できる取扱いも用意されていますので、あきらめる前に運輸支局へ問い合わせてみてください。

証明書に書かれた住所へ送っても届かないことは珍しくありません。登録上の住所は住民票と連動しないため、長く放置された車ほど実際の居所とずれています。そのときは住民票の第三者請求で転出先を追い、それでも行き詰まったら弁護士に依頼して弁護士会照会という手も残っています。所有者が亡くなっていれば相手は相続人に変わり、全員が相続放棄していれば相続財産清算人の選任を検討することになります。車検証の所有者がローン会社やディーラーであれば、会社に連絡することでかえって早く片づく場合もあります。

それでも相手にたどり着けないときに使うのが公示送達です。所在が分からないままでも訴訟を進められる制度で、公示されるのは裁判所が書類を預かっているという趣旨の事項までであり、訴えの中身が公開されるわけではありません。このとき、撤去を求めるなら少額訴訟ではなく妨害排除請求である点に注意してください。少額訴訟は60万円以下の金銭の支払いに限られた手続きで、車をどけさせるためには使えません。判決を得たあとは代替執行によって運び出すことになります。

何年たてば処分してよい、という制度が無いことも押さえておいてください。取得時効や無主物先占を根拠に自分の判断で動くのは危険で、間違えたときに責任を負うのは土地の所有者です。待った期間そのものよりも、その間に何をしたかを説明できることのほうが重要になります。調査から撤去まで一貫して引き受けられる業者もありますので、手続きの入口で行き詰まっているようでしたら、状況を整理したうえで一度ご相談ください。

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